はじめに

内部不正は、組織が長年信頼してきた従業員や退職者による機密情報の持ち出しや不正利用を指します。外部からの攻撃と異なり、正規のアクセス権限を持つ者が関与するため発見が難しく、被害が発覚したときには取り返しのつかない損失が生じています。2025年版IPAのリストでも重要な脅威として位置付けられており、具体的な事例と対策の紹介が求められています。本稿では、内部不正の種類と動機、兆候の検知方法、実務的な管理手法について詳しく解説し、重複のない情報を提供します。

内部不正の分類と動機

内部不正は大きく「悪意ある内部者」と「過失による内部者」に分けられます。悪意ある内部者は金銭目的や組織への恨み、競合への情報提供など故意に情報を盗む行為を行います。 過失による内部者は、セキュリティ意識の欠如やルール不理解による情報漏えいを引き起こします。動機としては、経済的困窮やギャンブル・借金による資金需要、退職時の持ち出しなどが挙げられ、組織に対する不満や報復感情も影響します。

典型的な攻撃手口

  1. 権限の悪用
    • 部門間で共有された管理者権限を利用して機密ファイルにアクセスし、データを持ち出す手法です。IT管理者や開発者が不正なソフトウェアをインストールしてバックドアを作成するケースもあります。
  2. 残存アカウントの利用
    • 退職者や異動者のアカウントが無効化されないまま残っている場合、外部から不正に利用される恐れがあります。これはアカウント管理の不備に起因します。
  3. 外部メディアやクラウドの悪用
    • USBメモリや個人用クラウドストレージに大量の情報をコピーし、持ち出す手法です。業務委託者が会社支給の端末でデータをダウンロードし、競合に提供する事例もあります。

国内事例と教訓

保険会社の社員が979人分の顧客情報を名簿業者に売却した事件では、営業担当が顧客管理システムにアクセスできることを悪用しました。退職者が持ち出した不動産会社の顧客情報を自社のダイレクトメールに使用した事件では、退職手続き後のアカウント削除が不十分であったことが要因でした。 製造業で取引先の機密情報が持ち出された事例では、USBメモリの持ち込み制限が徹底されていなかったことが指摘されています。これらの事例は、組織のプロセスや文化に潜む盲点を浮き彫りにしました。

兆候検知と監視技術

内部不正は外部攻撃より検知が難しいため、兆候の早期把握が重要です。ユーザー行動分析(UBA)やユーザー・エンティティ行動分析(UEBA)ツールは、従業員の通常の行動パターンを学習し、異常なログイン時間や大量のファイルダウンロードなどを検出します。アクセスログやメール送信ログの定期分析も有効で、不審なアクセスを見つけた場合は即座に権限を停止します。また、資金の流れや業務パターンを監査する内部監査機能も重要です。

組織的対策

アカウントと権限管理

アカウント管理では、退職者のアカウントを迅速に削除し、職務変更に伴う権限の付与・剥奪を自動化します。特権アカウントは共有せず、個人単位の認証情報と二要素認証を義務化します。最小権限原則を徹底し、業務に不要な権限を付与しない方針を定めます。

ポリシーと教育

内部不正防止には、職場の倫理教育やコンプライアンス研修が不可欠です。従業員がデータの機密性や漏えい時の影響を理解することで、不正行為への抑止力が高まります。内部通報制度を整備し、不正の兆候を早期に報告できる環境を作ることも重要です。報復防止の仕組みや匿名通報窓口を設け、相談しやすい雰囲気を醸成します。

技術的制御

USBメモリの使用制限やデータ持ち出し検知ツール、暗号化による機密データ保護を導入します。クラウドストレージ利用時には企業アカウントを限定し、ファイルのアップロード・ダウンロードログを記録します。DLP(Data Loss Prevention)製品を利用し、特定のファイル形式やキーワードを含むデータが外部へ送られる際にアラートを出すことも有効です。

まとめ

内部不正は企業の信頼を根底から揺るがすリスクであり、外部攻撃と同等かそれ以上に深刻です。本稿では、悪意ある内部者と過失による内部者の違い、典型的な手口、国内事例、そして兆候検知と対策を解説しました。重複を避けながら新たな視点を提供し、組織文化の改善や技術的対策の両輪で対応する重要性を強調しました。