はじめに

テレワークや在宅勤務が広く定着したことで、社内システムへのリモートアクセスが急増しました。しかし、リモート環境の不備や設定ミスを狙った攻撃が増加し、ランサム攻撃の侵入経路の大半がリモート関係から始まったとの報告もあります。 本稿では、リモートワーク環境における主要な攻撃ベクトルと具体的な事例を紹介し、ゼロトラストを含む最新の防御策を解説します。重複を避けながら、利用者目線の注意点と組織がとるべき管理策を整理しました。

リモートワーク攻撃の主な手口

VPN機器の脆弱性

VPNは社内ネットワークへの安全な経路として使われますが、デバイスの脆弱性や設定不備が攻撃者の標的になります。2024年にはVPN機器の脆弱性を突いた侵入が多発し、リモートから管理画面にアクセスされたり、不正に設定が変更されたりする事例が報告されました。攻撃者は盗んだ証明書やセッションIDを用いて認証を回避し、その後ランサムウェアを展開しました。

リモートデスクトップ(RDP)の悪用

RDPは便利なリモート管理手段ですが、弱いパスワードや公開ポートが攻撃対象となります。攻撃者はブルートフォース攻撃やパスワードリスト攻撃でログインし、管理者権限を奪います。その後、ランサムウェアを設置したり、情報窃取を行います。特に、リモートワーク導入初期に急造されたRDPサーバでは、ファイアウォール設定やログ監視が不十分なまま運用されるケースが多く、攻撃の温床となっています。

BYODとWi‑Fiのリスク

従業員の私物端末(BYOD)や家庭用Wi‑Fiルータのセキュリティも問題です。個人端末には古いOSや危険なアプリが残っていることがあり、社内ネットワークに接続するとマルウェアが持ち込まれる恐れがあります。家庭用Wi‑Fiルータが初期パスワードのまま使用されている場合、攻撃者がルータを乗っ取り、中間者攻撃やDNS乗っ取りを行う可能性があります。これらのリスクはリモートワークが長期化する中で顕在化しています。

具体的な事例

ある大手エネルギー企業では、VPNの設定不備を突かれて内部ネットワークに侵入され、416万件の顧客情報が漏えいしました。別の製造業者では、リモートデスクトップ経由で侵入され、生産ライン管理システムが暗号化されました。警察の報告によると、国内ランサム感染の83%がリモート関連の侵入口からだったとされています。 これらの事例は、リモートアクセスの設定や監視がいかに重要であるかを示しています。

防御策とベストプラクティス

ゼロトラストアーキテクチャ

ゼロトラストは「何も信頼しない」を前提とし、すべてのアクセスに対してユーザーとデバイスの健全性を確認します。リモートアクセスでは、従来のVPN接続に代わり、ユーザーの属性やアクセス先の重要度に応じてポリシーを適用するZTNAを導入します。これにより、侵害された端末からの横移動を防ぎます。

多要素認証と行動分析

VPNやRDPのログインには必ず多要素認証を設定し、パスワードだけに頼らない仕組みを整えます。さらに、ログイン履歴や端末情報を分析し、通常と異なるアクセスパターンが検出された場合には追加認証やアクセス遮断を行います。行動分析はユーザーの働き方に合わせてチューニングし、過剰なアラートで業務を妨げないよう工夫します。

BYOD管理とネットワーク分離

私物端末の業務利用を許可する場合、MDM(モバイルデバイス管理)やコンテナ技術で業務データと個人データを分離します。端末のセキュリティパッチ管理、ウイルス対策、リモートワイプ機能を必須とし、許可されていないアプリや設定を検知した際にはアクセスを停止します。また、社内ネットワークはインターネットアクセス用と業務システム用に分離し、不正端末から機密データへ直接アクセスできないようにします。

ユーザー教育と文化

リモートワーク環境では従業員の自律性が高まる一方、セキュリティ意識が希薄になりがちです。定期的な教育で最新の攻撃手法を共有し、パスワード管理やファイル共有のルールを徹底します。ビデオ会議やチャットツールの設定不備による情報漏えいもあるため、プライバシー設定や画面共有の注意点を周知します。組織は、疑問や不安があればすぐに相談できるサポート窓口を設け、積極的に報告を促す文化を醸成します。

まとめ

テレワーク環境の脅威は、技術的な脆弱性と人的な要因が絡み合う複雑な問題です。本稿では、VPNやRDP、BYODとWi‑Fiのリスクを具体的事例とともに解説し、ゼロトラストや多要素認証、BYOD管理などの対策を紹介しました。重複を避けつつ、リモートワーカーに必要な情報と組織の方針策定のポイントを整理しました。安全なリモートワークを実現するには、技術と文化の両面から継続的な改善が必要です。