はじめに

サイバーセキュリティへの投資額は年々増加傾向にありますが、どこにどう配分するかが重要です。限られた予算を正しく配分し、最大の効果を得ることが経営層には求められます。2024年現在、セキュリティ投資はIT予算の約13%と過去最高水準に達しています。本記事では、セキュリティ予算の適切な策定と配分方法、投資対効果の示し方について解説します。

セキュリティ予算規模の決め方

1. リスクベースアプローチ

投資額はビジネスにおけるリスクに見合ったものであるべきです。自社の情報資産価値や脅威シナリオを評価し、想定被害額や発生確率を算出して、許容できない損失をカバーできる程度の予算を割くのが基本です。例えば、年間1億円の潜在損害リスクがあるなら、その10~20%(1000~2000万円)程度は最低投資するといった考えです。

2. 業界ベンチマーク

業種によっても適正水準は異なります。金融や通信など高リスク業界はIT予算比で10%以上、製造などは5%前後が目安という調査もあります。実際、2020年から2024年にかけて平均は8.6%から11.9%へ上昇しました。自社業界や規模に近い企業の水準を参考に、大きく乖離していないか確認します。

3. 最低限の固定費

セキュリティ維持には保守費用がかかります。IT資産の年間保守費は開発費の5~15%が相場とも言われ、この中にセキュリティ更新費用(ソフトウェアアップデート、証明書更新、脆弱性診断など)も含まれます。これら現状維持コストはまず確保し、その上で新規対策への追加予算を検討します。

投資配分のポイント

1. 人・プロセス・技術のバランス

セキュリティは「人(教育)」「プロセス(運用)」「技術(ツール)」の三位一体が重要です。予算配分もこれに準じ、例えば総予算の30%を人材育成・アウトソーシング費、30%を監視運用費、40%を製品導入費といったバランスを取ります。どれか一方へ偏らないよう注意します。

2. 基本対策の優先

予算はまず基本的な多層防御策に振り向けるべきです。具体的には、エンドポイントセキュリティ(ウイルス対策)、ネットワーク防御(ファイアウォール/IDS)、アクセス管理、バックアップ体制、社員教育といった領域です。高度なAI分析ツール等はその後の段階です。基本対策はPC1台あたり年数千円程度から導入可能で、組織全体ではまずこのコストを見積もります。

3. 先進対策へのメリハリ

次に、自社に特有のリスクや保護すべき「お宝」に応じて重点投資を決めます。例えば顧客個人情報を大量保有するならDLP(データ漏洩防止)や暗号化技術に手厚く配分します。工場制御システムならICSセキュリティ製品に割きます。全体予算の中で重点領域にメリハリを付け、その他は最低限にとどめると効果的です。

4. 維持 vs 新規

既存対策の維持・運用新規施策のバランスも検討します。全予算の中で、例えば7割を既存施策の継続費に、3割を新規プロジェクトに充てる、といった考え方です。新規ばかり手を広げると既存がおろそかになり穴が空くので、守りの維持に十分投入した上で、残りを攻め(高度化)に振り向けます。

5. インシデントレスポンス費用

予算にはインシデント対応の予備費も織り込んでおきます。フォレンジック調査や緊急支援外注、広報対応費など、平時からある程度積み立て枠を用意し、不測の事態でも資金手当てできるようにします(これを保険で賄う場合もあります)。これがないと、いざという時別予算確保に時間がかかり初動遅延を招きます。

経営層への投資対効果の示し方

セキュリティ投資のROIは測りにくいですが、損失回避という観点で示すことができます。

  • リスク削減額の算出
    • 例えば、重要システム二重化に500万円投資しダウン時損失を年間3000万円から500万円に低減できるなら、年あたり2500万円の損失を防いだと試算できます。このように対策により低減できた損失期待額を計算し、費用対効果を数値化します。ROIがプラスでなくとも、リスク圧縮効果を定量的に説明することが大切です。
  • インシデント発生率低減
    • 投資前後でのインシデント件数や被害額の推移を追い、減少していれば「○○導入後、インシデント件数が前年より40%減少」という風に成果を示します。わかりやすいKPIと組み合わせて報告することで、経営層も納得しやすくなります。
  • 比較シナリオ提示
    • 投資しなかった場合に起こり得る最悪シナリオと、投資した場合の軽減シナリオを示し、その差を強調します。「未導入なら1週間業務停止・損失1億、導入で停止を1日に抑え損失1000万」といった対比です。投資による被害縮小ストーリーが理解できれば、金額の妥当性も伝わります。
  • 業界事例
    • 同業他社のセキュリティ事故ニュース等を引用し、「○社はXX対策不足でY億の賠償、当社は今回の投資で同様の事態を回避できる」と示します。リアルな例は経営にも響きやすく、他山の石として説得力を持ちます。

まとめ

セキュリティ予算の策定・配分は、経営資源配分としての戦略判断です。ただ闇雲に金額を積み増すのではなく、自社のリスクに見合った適切な額を、適切な箇所に割り振ることが重要です。平均ではIT予算の1割強がセキュリティに投じられていますが、大切なのはその内訳と効果です。

経営層は、セキュリティ部門から上がってくる予算要求に対し、リスク評価と投資対効果の視点で議論し、メリハリある投資判断を下す必要があります。幸い、最近は数値で効果を示す手法も整いつつあり、「守りの投資」の合理性を説明しやすくなっています。適切な予算配分はインシデント被害を最小化し、結果として財務健全性と企業信用を守ります。

セキュリティはコストではなく将来への投資です。経営者はその意識のもと、予算策定に積極的に関与し、企業にとって最善の「守りの戦略」を描いていきましょう。