はじめに: サイバーセキュリティ事故に対する社会の目は厳しくなり、経営層の責任が問われるケースが増えています。個人情報漏洩で社長辞任、株主代表訴訟で取締役に賠償命令、当局からの業務改善命令など、「知らなかった」では済まされない時代となりました。ここでは、経営層が自身の責任を自覚し何をすべきかを論じます。
経営者責任が問われる背景
1. コーポレートガバナンスの強化
情報は企業価値の源泉であり、その管理不備は経営不祥事とみなされます。日本でも2021年に経産省が「サイバーセキュリティ経営ガイドラインVer3.0」を策定し、経営者が果たすべき責務を明記しました。取締役会におけるサイバーリスク報告やCISO配置など、やらねば経営監督義務違反とされかねません。
2. 法規制の強化
欧州GDPRではデータ保護責任者の設置義務や違反時の巨額制裁金が規定され、米国SECもサイバーリスク開示や取締役の専門性開示を義務化する方向です。日本でも個人情報保護法等の改正で罰則が強化されました。結果、経営トップが説明責任を求められる場面が増えています。
3. 利害関係者の意識変化
株主・投資家もセキュリティを企業評価の視点に入れています。重大インシデントが起きれば株価下落・投資引き上げの動きは顕著です。また取引先もサプライチェーン全体の安全を重視し、取締役会の関与を確認することもあります(アンケートで「経営陣がサイバー対策を承認しているか」を問う等)。こうした圧力が経営層の責任を後押ししています。
経営層に求められる具体策
1. トップダウンの体制構築
経営トップ自ら旗を振り、全社横断のセキュリティ体制を構築します。CISO等の責任者を経営陣に位置づけ、予算・人員などリソースを適切に配分します。また、取締役会で定期的に議論する場を設け、方針決定や重要インシデント対応にコミットします。
2. ポリシー策定と浸透
情報セキュリティ基本方針を経営者名で策定・発信します。それを基に各規程(利用規則、事故対応手順など)を定め、従業員に周知徹底します。トップのコミットメントが明確になることで、組織全体が従いやすくなり、万一の際「方針が無かった」という言い訳も防げます。
3. トレーニングへの参加
取締役・役員も積極的にセキュリティ訓練に参加します。Day12で述べた経営層演習やIncident対応シミュレーションに自ら臨み、経験値を積みます。これにより、有事に適切な指示が出せ、責任あるリーダーシップを発揮できます。平時も専門知識習得に努めます(社外セミナーや資格取得等)。
4. ステークホルダーへの説明責任
万が一事故が起きたら、経営トップが先頭に立って謝罪・説明します。顧客対応、メディア対応はもちろん、株主への状況報告も怠りません。曖昧な説明や責任転嫁は厳禁です。透明性のある対応は、その後の信頼回復に不可欠であり、結果的に経営層自身を守ることにもなります。
5. 持続的改善
セキュリティはゴールのない取り組みです。経営陣はPDCAサイクルを監督し、常に現状評価と改善策投入を行います。新たなリスク(クラウド利用、DX、AI等)には臆さず投資判断し、組織能力をアップデートします。「自社は十分」は慢心と知り、脅威環境の変化に合わせ経営戦略も微調整します。
経営層の覚悟
不作為のリスク
今やセキュリティ軽視は経営判断ミスとみなされ、法的・社会的責任を問われます。取締役として善管注意義務を果たすには、サイバーリスク対策も含まれると心得るべきです。カナダの大手企業ではサイバー攻撃の損害で株主訴訟が起き、役員が数千万ドルの賠償に応じた例もあります。何もしないことが最も危険なのです。
攻めと守りの両立
経営者はリスクを恐れるばかりでは事業機会を逃します。攻める所は攻め、守る所は守るメリハリが肝心です。セキュリティもコストと投資のバランスを取り、企業価値を高める方向で活かす視点が必要です(Day23参照)。責任を問われる時代だからと委縮せず、前向きに安全を企業価値へ昇華させる覚悟を持ちたいものです。
まとめ
「経営層として責任を問われる時代」とは、裏を返せば経営層がリーダーシップを発揮できる時代でもあります。セキュリティ確保は困難な課題ですが、これに真摯に取り組む経営者は社内外から信頼され、企業の持続的成長を導けるでしょう。責任を恐れるのでなく、責任を果たすチャンスと捉え、先頭に立ってサイバーリスクと向き合ってください。
経営トップが本気で臨めば、組織は変わります。社員は安心して力を発揮でき、顧客や社会もその姿勢を評価します。まさに今、経営層の覚悟が試されています。「知らなかった」は通用しない。だが「私が守る」は組織を奮い立たせる。──そんなリーダーシップをもって、新たな時代の荒波を乗り越えていきましょう。