はじめに
多くの企業で、経営層(ビジネスサイド)とセキュリティ部門(技術サイド)の間に「対話の断絶」が見られます。経営側はセキュリティを難解と感じ、セキュリティ側は経営語を話せないといったミスコミュニケーションです。この溝を埋め、経営とセキュリティが効果的に対話する仕組みを設計することが、戦略的セキュリティ経営の鍵となります。以下では、その具体策を述べます。
対話の重要性と課題
重要性
サイバーリスクは経営リスクであり、意思決定に両者の協働が必要です。例えば、新規DXプロジェクト立ち上げ時、セキュリティ部門の早期関与があれば安全性とスピードを両立できますが、対話なければ後手対応で問題が起きます。「セキュリティ対策=経営判断」となる場面も多く、対話設計は避けられません。
課題
しかし現状、多くの経営陣はサイバー専門用語に疎く、レポートを受けても理解困難です。一方、セキュリティ担当は技術詳細に囚われ戦略的示唆が乏しい報告をしがちです。言語の不一致により適切なリソース配分などが議論されず、セキュリティ軽視や逆に過剰投資の非効率が生じます。この溝を埋めることが対話設計の目標です。
対話を促進する仕組み
1. 「翻訳者」の配置
組織内に、ビジネスとセキュリティ両方の知見を持つ橋渡し役を置きます。CISOや情報戦略担当役員がこれを担うケースもありますが、それに限らずビジネス部門出身のセキュリティ戦略担当やセキュリティ知見ある経営企画などがいると効果的です。この人が経営目線でのセキュリティ報告書作成や、取締役会説明を平易に噛み砕く役割を果たします。
2. KPI/KRIなど共通指標の設定
Day17で触れたようなセキュリティKPI/KRIを導入し、経営陣と現場が共通言語で状況を把握できるようにします。例えば「重大インシデント件数」「リスク低減額」等、ビジネスインパクトに紐づけた指標を用いると経営層は理解しやすく、数字を軸に会話ができます。報告も専門用語を避け、損失額や確率など経営者が慣れた尺度で示します。
3. 定期コミュニケーションの場
取締役会報告以外にも、経営層とセキュリティ部門が直接対話する場を設計します。例えば四半期ごとにCEO-CISOミーティングをセットし、自由討議を行う。また役員合宿等でサイバー危機シナリオのディスカッションを企画するなど、形式にとらわれない意見交換機会を増やします。これにより相互理解が深まり、信頼関係が醸成されます。
4. セキュリティロードマップの共有
経営戦略と整合した中長期のセキュリティ強化計画(ロードマップ)を策定し、経営層と合意します。DX計画に組み込む形が理想です。例えば「3年で基幹システム刷新しゼロトラスト導入」「今年はまず人的訓練強化」等、優先順位とスケジュールを示す。経営はこれを把握し、必要資源を約束する。一方現場は経営意図を汲み現実的計画を作る。共通の計画を持つことで対話が計画駆動で進みます。
5. ワークショップ/疑似体験
Day12でも触れた経営層向け演習は、対話促進にも寄与します。役員がセキュリティインシデント対応を疑似体験するワークショップを通じ、疑問や懸念が自然に議論されます。この場にセキュリティ担当も参加し、その問いに答えることで双方の視点を知ることができます。体感共有は机上報告以上に心に残り、次のコミュニケーションを円滑にします。
期待される効果
- 迅速な意思決定
- 経営と現場の距離が縮まり、緊急時の報告・判断がスピードアップします。取締役会承認待ちに時間がかかる事態が減り、リスク対応が俊敏に。
- 適切な資源配分
- 経営が理解することで、過不足ないセキュリティ予算が確保されます。また投資効果も対話の中で検証され、経営と現場が納得しながら改善を進められます。
- 現場モチベーション向上
- 自分たちの活動が経営に認知・評価されていると感じることで、セキュリティチームの士気が上がります。逆に経営層も現場苦労を知り賞賛するようになれば組織の一体感が増します。
- ステークホルダー信頼
- 経営とセキュリティが一体となった発信ができれば、顧客や株主への説明にも説得力が増し信頼が向上します。ESGの観点でも高評価でしょう。
まとめ
経営とセキュリティの対話を設計するとは、組織内の言語と文化の壁を壊すことです。お互いの領域を尊重しつつ、共通のゴール(企業価値向上)のために協働する基盤を築く。それは組織をより強靭にし、リスクへの耐性を高め、攻めの経営を支える土台となります。
経営層はぜひ「セキュリティは経営問題」と認識し、対話のリーダーシップを発揮してください。一方セキュリティ部門は、ビジネスの視点を学び経営のパートナーとなる努力をしましょう。**対話が生まれれば、解決策が生まれる。**この信念のもと、社内コミュニケーションをデザインし、未知の脅威にも揺るがぬ経営基盤を築いていきましょう。