※本稿は、2026年8月30日時点で公開されている資料に基づいています。実際の復旧方法は、建物の電気設備、UPS、サーバー、ネットワーク機器などの構成によって異なります。必ず各機器の取扱説明書や保守会社の手順を優先してください。

停電が終わり、事務所の照明が点灯すると、「これで仕事を再開できる」と考えがちです。

しかし、電気が戻ったことと、ITシステムが正常に復旧したことは同じではありません。

インターネット回線、ルーター、スイッチ、NAS、サーバー、認証システム、業務アプリケーションには、それぞれ依存関係があります。必要な機器が起動していない状態でパソコンや業務システムを立ち上げても、ログインできない、ファイルが開けない、データベースへ接続できないといった問題が起こります。

また、大雨や地震を伴う停電では、設備や配線が水濡れ、破損している可能性もあります。異常を確認しないまま電源を入れると、漏電や火災などの二次被害につながるおそれがあります。

2026年6月の記事「梅雨・台風前のIT防災点検」では、機器の設置場所、バックアップ、通信断への備えなど、主に停電や災害が発生する前の対策を取り上げました。今回はその続きとして、電気が戻った後に、IT機器をどの順番で復旧させるかを考えます。

最初に確認するのは、パソコンではありません

停電から復旧したときに、最初に行うことはパソコンの電源を入れることではありません。

まず、人と建物、電気設備の安全を確認します。

特に次のような状態が見られる場合は、機器へ電源を入れず、施設管理者、電気工事業者、保守会社などへ連絡してください。

  • 床、壁、天井、コンセント周辺が濡れている
  • 電源コードやコンセントが破損している
  • 焦げた臭い、煙、異常な熱がある
  • 分電盤やUPSから異音がする
  • UPSや電源装置に警告が表示されている
  • サーバーやNASが転倒、落下、浸水している
  • 切れた電線や垂れ下がった電線がある

東京電力パワーグリッドは、停電復旧時の通電による漏電、火災、事故を防ぐため、停電中にブレーカーを下げ、電気機器のプラグを抜き、復旧後にブレーカーを入れてから機器を接続するよう案内しています。これは主に家庭向けの案内ですが、事業所でも、異常の有無を確認せずに一斉に通電しないという安全上の考え方は参考になります。

分電盤や配線に異常が疑われる場合は、内部を開けたり、自社で修理したりしないでください。

「復電」と「業務復旧」を分けて考える

情報システムの復旧では、どの業務を、どの程度まで、何時間以内に戻すのかを先に決める必要があります。

IPAは、事業継続計画における情報システムの復旧目標として、次の三つを示しています。

項目内容
RLO(目標復旧レベル)どの業務を、どの程度の処理能力まで復旧させるか
RTO(目標復旧時間)目標とする状態まで何時間以内に復旧させるか
RPO(目標復旧時点)どの時点のデータまで戻すか

また、情報システムの基盤には、サーバーやストレージだけでなく、建物、設備、電力、ネットワークサービス、運用・保守体制も含まれるとされています。

つまり、「会計サーバーの電源を入れたから復旧完了」ではありません。

会計業務を再開するためには、ネットワーク、認証、データベース、バックアップ、端末、プリンターなどが必要になる場合があります。どの機器を先に動かすかは、機器の価格や大きさではなく、業務上の優先順位とシステムの依存関係から決めます。

まず「業務に必要なもの」を洗い出す

復旧順序表を作る前に、優先して再開する業務と、その業務に必要な機器・サービスを整理します。

例えば、次のように考えます。

優先する業務必要な機器・サービスの例
顧客からの問い合わせ対応インターネット回線,ルーター,メール,電話,顧客管理システム
受注処理認証システム,受注システム,データベース,NAS,プリンター
出荷作業倉庫システム,無線LAN,バーコード端末,ラベルプリンター
請求・支払会計システム,ファイルサーバー,インターネットバンキング,MFA用端末
経営判断売上データ,在庫データ,連絡手段,取引先情報

この表を作ると、「複合機よりも先にルーターを動かす」「業務アプリケーションより先にデータベースを起動する」といった関係が見えてきます。

クラウドサービスを中心に利用している企業では、社内サーバーよりも、インターネット回線、ルーター、ファイアウォール、認証サービスの復旧が優先されることがあります。

一方、社内のNASやサーバーに業務データを保存している企業では、ストレージやサーバーの確認が必要です。

中小企業における起動順序の一例

ここから示す順序は、公的機関が定めた統一手順ではなく、一般的な小規模事業所を想定した実務上の一例です。

実際には、システム構成、メーカーの仕様、保守契約、ネットワーク設計によって順序が変わります。

0.人、建物、電気設備の安全を確認する

最初に、浸水、破損、発煙、異臭、漏電の疑いがないことを確認します。

異常が疑われる場合は、復旧作業を中止します。

「業務を早く再開したい」という理由で、安全確認を省略してはいけません。

1.UPSと電源設備を確認する

サーバーやネットワーク機器をUPSへ接続している場合は、UPSの表示、警告、バッテリー残量、出力状態を確認します。

停電中にバッテリーを大きく消費していると、電気が戻っても十分に充電されていないことがあります。復旧直後に再び停電すると、サーバーを正常に停止するための電力が残っていない可能性があります。

APC Smart-UPSの一部製品では、復電後すぐに出力を開始せず、一定の待機時間や最低限のバッテリー容量を確保してから起動する設定が用意されています。メーカーはその理由として、復電後に再度停電した場合、OSのシャットダウン途中でバッテリーが尽きる可能性を挙げています。これは特定メーカー・製品の仕様であるため、他社製UPSについては各製品の説明書を確認してください。

2.インターネット回線とネットワーク機器を起動する

次に、通信の入口と社内ネットワークを復旧させます。

一般的には、次のような機器が対象になります。

  • ONUやモデム
  • ルーター
  • ファイアウォール
  • VPN装置
  • コアスイッチ
  • 各フロアのスイッチ
  • 無線LANアクセスポイント
  • 無線LANコントローラー

一台ずつ起動し、電源ランプだけでなく、回線接続、警告表示、通信状態を確認してから次へ進みます。

ONU、ルーター、スイッチ、無線LANを一度に立ち上げると、どの機器で問題が発生しているのか分かりにくくなります。

3.ストレージとサーバー基盤を起動する

NAS、SAN、外付けストレージ、仮想化サーバーなどを利用している場合は、業務アプリケーションより先に、その基盤を復旧させます。

確認する項目の例は次のとおりです。

  • ディスクやRAIDに異常がないか
  • ボリュームが正常に認識されているか
  • 異常な音がしていないか
  • 管理画面に警告が出ていないか
  • 仮想化ホストが正常に起動しているか
  • 必要な仮想マシンを認識しているか

異常が表示された場合、何度も強制再起動するのは避けてください。

画面や警告内容を記録し、メーカーや保守会社へ連絡します。

4.認証、名前解決などの共通機能を起動する

社内システムによっては、次のような共通機能が必要です。

  • DNS
  • DHCP
  • Active Directoryなどの認証基盤
  • 時刻同期
  • ライセンス管理
  • ファイル共有
  • 証明書関連サービス

これらが起動していないと、サーバー自体は動いていても、利用者がログインできなかったり、システム名で接続できなかったりすることがあります。

ただし、認証基盤が仮想サーバー上にある場合や、ストレージ側が認証基盤を参照する場合など、構成によって依存関係は異なります。

「認証は必ずストレージの後」と一律に決めるのではなく、自社の構成を確認することが必要です。

5.データベースと業務アプリケーションを起動する

共通基盤を確認した後、データベース、ミドルウェア、業務アプリケーションの順で起動します。

例えば、販売管理システムがデータベースを利用している場合、データベースが正常に起動してから販売管理システムを立ち上げます。

単に「サービスが開始済み」と表示されているだけでなく、次のような確認を行います。

  • テスト用アカウントでログインできるか
  • 最新のデータが表示されるか
  • 登録、検索、印刷などの基本操作ができるか
  • エラーログが記録されていないか
  • 他システムとの連携が動作しているか

仮想化環境では、シャットダウン時と起動時の順序を設定できる製品があります。

例えば、Schneider Electricが公開しているVMware環境向けのPowerChute設定例では、物理サーバー、管理サーバー、vApp、仮想マシンといった順序を考慮して起動し、仮想マシンは停止時とは逆の順序で起動する構成が示されています。また、物理サーバーを自動起動させるには、BIOS側の電源復旧設定も必要とされています。

これは特定製品の構成例ですが、サーバーを一台ずつ独立して考えるのではなく、システム全体の依存関係を確認する必要があることを示しています。

6.利用者のパソコンや周辺機器を起動する

サーバーやネットワークが正常に動作していることを確認してから、利用者のパソコン、業務端末、複合機、プリンターなどを起動します。

この段階まで、従業員が各自の判断で一斉に機器を起動しないよう、社内ルールを決めておくことが重要です。

例えば、社内チャットや緊急連絡網で、次のように通知します。

現在、IT機器の復旧確認中です。担当者から業務再開の連絡があるまで、パソコン、複合機、業務端末の電源を入れないでください。

復旧確認が終わった部門から、順次利用を再開します。

電源ランプが点灯しても「正常」とは限らない

復旧作業では、「電源が入ったか」だけでなく、「本来の機能を利用できるか」を確認します。

確認項目は、機器ごとに具体的に決めておきます。

対象正常確認の例
UPS警告なし,出力正常,必要なバッテリー残量を確保
ONU・ルーター回線接続済み,外部サイトへ接続可能
ファイアウォール警告なし,VPNや必要な通信が利用可能
スイッチ異常表示なし,必要なポートがリンクしている
NASボリューム正常,共有フォルダへアクセス可能
サーバーOS・必要サービスが正常起動
認証基盤テストアカウントでログイン可能
データベース接続可能,エラーなし
業務システムログイン,検索,登録,保存,印刷を確認
バックアップバックアップ装置・ソフトが正常認識されている

正常確認が終わる前に、全従業員へ利用を許可すると、問い合わせが集中し、原因調査が難しくなります。

担当者がテストしてから、利用再開を通知してください。

IT復旧順序表に記載する項目

復旧順序表は、単なる機器一覧ではありません。

少なくとも、次の項目を記載します。

管理項目記載内容
復旧順序何番目に作業するか
機器・サービス名ルーター、NAS、会計サーバーなど
設置場所サーバー室、事務室、倉庫など
業務上の用途受注、請求、ファイル共有など
依存先先に起動が必要な機器・サービス
起動方法電源ボタン、管理画面、自動起動など
正常確認方法確認するランプ、画面、操作
標準所要時間起動と確認にかかる時間
担当者作業を実施する人
連絡先メーカー、保守会社、回線事業者
異常時の対応中止条件、連絡先、代替手段
作業記録開始時刻、完了時刻、結果、作業者

復旧順序表は、ネットワーク上だけに保存しないでください。

ネットワークやNASが停止していると、復旧手順そのものを開けなくなります。紙で一部保管する、担当者の端末にオフライン保存するなど、停電中でも参照できるようにします。

ただし、管理者IDやパスワードなどの秘密情報を、誰でも見られる復旧順序表へ直接記載することは避けてください。

復旧順序表の簡易例

次の表は、一般的な小規模事業所を想定した例です。

順序対象主な確認内容異常時
0建物・電気設備浸水,破損,発煙,異臭がない復旧中止、施設管理者へ連絡
1UPS・電源装置警告,残量,出力状態機器を接続せず保守会社へ連絡
2ONU・ルーター・ファイアウォール回線接続,警告,外部通信回線事業者・保守会社へ連絡
3スイッチ・無線LANリンク状態,社内通信ケーブル・電源・設定を確認
4NAS・ストレージディスク,RAID,ボリューム再起動を繰り返さず保守会社へ連絡
5物理・仮想サーバーOS,仮想マシン,警告画面とログを記録して連絡
6認証・DNS・共通サービスログイン,名前解決,時刻依存サービスを再確認
7データベース・業務システム接続,検索,登録,保存利用開始を止め、原因を確認
8パソコン・複合機・周辺機器ログイン,印刷,業務操作対象部門のみ利用を停止
9全社利用再開部門責任者へ通知代替業務を継続

このまま使用するのではなく、自社の機器名、設置場所、担当者、保守連絡先へ置き換えてください。

自動起動になっているとは限らない

停電から復旧すると、自動的に元の状態へ戻ると思われている機器があります。

しかし、実際の動作は設定によって異なります。

例えば、次のような違いがあります。

  • 復電すると自動的に起動する
  • 復電しても停止したままになる
  • 一定時間待ってから起動する
  • バッテリーが一定量まで充電されると起動する
  • 管理者が手動操作しなければ起動しない
  • BIOSやUEFIの設定によって動作が変わる
  • UPS側の設定によって出力開始時刻が変わる

APC Smart-UPSの一部構成でも、復電時に自動起動する設定と、停止状態を維持して手動で起動する設定が分かれています。

平常時に、各機器がどのような設定になっているかを確認し、「自動で起動する機器」と「手動で起動する機器」を復旧順序表へ記載してください。

実際に停電させる前に、机上訓練を行う

復旧順序表を作成しても、担当者が内容を理解していなければ、緊急時には使えません。

まずは実際に電源を切らず、机上訓練を行います。

「月曜日の朝、事務所へ来ると停電していた。午前9時に電気が戻った」という状況を設定し、次の点を確認します。

  • 最初に誰が安全を確認するか
  • 誰が機器の電源投入を許可するか
  • 従業員へどのように連絡するか
  • どの業務を優先して再開するか
  • 復旧順序表を停電中でも参照できるか
  • 保守会社や回線事業者の連絡先が分かるか
  • 担当者が不在の場合、誰が代行するか
  • 復旧できない場合、どの代替業務へ切り替えるか

実際に電源を切る復旧試験は、機器やシステムの停止を伴います。メーカーや保守会社の手順を確認し、バックアップや業務影響を確認したうえで計画的に実施してください。

年1回程度の机上確認に加え、サーバー、ネットワーク、UPS、クラウドサービス、保守会社などを変更したときにも、順序表を見直す方法が現実的です。この頻度は公的な統一基準ではなく、実務上の目安です。

経営者が確認したい五つの質問

経営者が、サーバーの操作方法をすべて覚える必要はありません。

ただし、少なくとも次の五つには答えられる状態にしておく必要があります。

  1. 停電後、最初に復旧する業務は何か
  2. IT機器の電源投入を判断する責任者は誰か
  3. ネットワーク、サーバー、業務システムの起動順序が文書になっているか
  4. 担当者が不在でも、復旧手順と連絡先を確認できるか
  5. 復旧できない場合の代替業務を決めているか

これらが決まっていなければ、停電時に「詳しそうな社員」が、その場の判断で復旧作業をすることになります。

担当者個人の経験だけに頼らず、会社として順序と判断基準を決めてください。

まとめ

停電が終わり、電気が戻っても、すぐに全ての機器を起動してよいとは限りません。

まず、人、建物、配線、コンセント、UPSなどに異常がないことを確認します。そのうえで、業務上の優先順位とシステムの依存関係に従い、ネットワーク、ストレージ、共通基盤、業務システム、利用者端末の順に、一つずつ正常性を確認しながら復旧させます。

ただし、この順番は全ての企業に共通するものではありません。

クラウド中心の会社と、社内サーバー中心の会社では、優先する機器が異なります。自社のシステム構成を確認し、メーカーや保守会社の手順を反映した「IT復旧順序表」を作成することが重要です。

最初から複雑な手順書を作る必要はありません。

まずは、使用している機器とサービスを一覧にし、「何を先に起動しなければ、次の機器が使えないか」を矢印でつなぐところから始めてください。

ライトハウスコンサルタントでは、専任の情報システム担当者がいない中小企業を対象に、IT資産の整理、復旧優先順位の確認、インシデント対応手順、BCP、バックアップ・復旧手順の作成を支援しています。