新しいパソコンを購入した。

故障したNASを入れ替えた。

古いスマートフォンを下取りへ出すことになった。

使わなくなったUSBメモリが、引き出しから何本も見つかった。

機器を入れ替えるとき、担当者の関心は新しい機器へのデータ移行や業務再開に向きます。その一方で、古い機器に残っている情報の処理は後回しになりがちです。

「初期化したから大丈夫」

「回収業者へ渡したので、後は業者が消してくれる」

「資産台帳で廃棄済みにした」

このような対応だけでは、データが復元できない状態になったことや、対象機器が実際に適切な処理を受けたことを確認できません。

個人情報保護委員会のガイドラインでは、個人データを削除したり、個人データが記録された機器や電子媒体を廃棄したりする場合、復元不可能な手段で行わなければならないとされています。

さらに、削除・廃棄の記録を保存することや、作業を外部へ委託した場合には、委託先が確実に処理したことを証明書等で確認することも重要だと示されています。方法の例として、専用のデータ削除ソフトウェアや物理的破壊が挙げられています。

ただし、すべての企業が、すべての機器について必ず同じ様式の消去証明書を取得しなければならない、という一律の規定ではありません。

取り扱っていた情報、媒体の種類、廃棄方法、委託関係、契約、業界固有の規則に応じて、必要な処理と証跡を決める必要があります。

本記事では、PC、NAS、USBメモリ、スマートフォンを廃棄・返却・譲渡するときに、データ消去から証明書確認、資産台帳の更新までを一つの業務として管理する方法を解説します。

2026年に確認したい「消去方法」から「消去管理」への変化

NISTは2025年に媒体消去ガイドを全面改訂

米国国立標準技術研究所、NISTは2025年9月、「SP 800-88 Rev.2 Guidelines for Media Sanitization」を正式に公開しました。2026年7月にはFAQも追加されています。

Rev.2では、単に消去ソフトの操作方法を説明するのではなく、情報の重要度、媒体の種類、消去方法、検証、記録、処分先までを含む「媒体消去プログラム」を組織として運用する考え方が重視されています。

NIST文書は米国政府機関向けの技術指針であり、日本の中小企業に直接適用される法律ではありません。

一方、PC、SSD、USBメモリ、スマートフォン、ネットワーク機器、複合機など、媒体ごとに消去方法を選び、実施結果を検証し、証明書へ記録する考え方は、日本企業の廃棄手順を作る際にも参考になります。

東京都の2026年7月公募でも証明書が要件になった

東京都は2026年7月9日、「希少資源緊急回収プロジェクト」のパソコン回収事業を公募しました。

公募対象事業には、排出者から依頼された場合、専用ソフト等でパソコンのデータを消去してデータ消去証明書を発行するか、パソコンを物理的に破砕して破壊証明書を発行することが要件として含まれています。

これは東京都の当該事業に対する要件であり、全国の企業に同じ証明書を義務付ける制度ではありません。

それでも、企業が安心して機器を回収へ出すためには、「消去しました」という口頭説明ではなく、対象機器、処理方法、処理結果を追跡できる証明が重要であることを示す例といえます。

「廃棄」はごみとして捨てることだけではない

データ消去を検討すべき場面は、機器をごみとして処分するときだけではありません。

NISTは、リース返却、寄付、再販売、リサイクル、保証交換などにより媒体が組織の管理外へ移る場合を、消去判断が必要となる場面として示しています。

場面データ消去が必要となる理由
リース・レンタル機器の返却返却後に別の利用者へ再提供される可能性がある
中古買取・下取り再利用や部品取りが行われる可能性がある
保証交換故障品がメーカーや修理事業者へ渡る
リサイクル分解・選別・再資源化の工程で社外へ移動する
寄付・社外譲渡別組織の利用者が機器を使用する
社内での利用者変更前利用者のデータを後任者に見せないため
修理・保守修理担当者が保存データへアクセスする可能性がある
故障機の保管「後で処分する」として長期間、所在不明になりやすい

特に見落としやすいのが保証交換です。

故障したSSDやスマートフォンは、自社で通常の消去操作を実行できない場合があります。そのままメーカーへ返送すれば、未消去の媒体が自社の管理外へ出ることになります。

契約前または修理依頼前に、故障媒体の返却有無、返却しない場合の破壊・消去方法、証明書の有無を確認する必要があります。

「削除」「初期化」「消去」「破壊」は同じではない

社内の廃棄申請書に、単に「データ削除済み」と記載しても、実際に何を行ったのか分かりません。

用語実際に行われること注意点
ファイル削除ファイルやフォルダを削除する記憶媒体全体を処理したことにはならない
フォーマットファイルシステムを作り直す方法によってはデータ領域が残る
OSの初期化OSを再設定・再インストールする媒体と初期化方式によって保証水準が異なる
Clear利用者がアクセスできる領域を論理的に消去する単純な復旧への対策を想定する
Purge高度な技術でも復元を困難にしつつ、媒体を再利用可能にする媒体専用の消去命令や暗号学的消去等を使う
Destroy媒体を再利用不能にし、データ復元を困難にする物理破壊方法の適切性を確認する必要がある
消去証明書何を、どの方法で、誰が処理したかを記録する証明書自体がデータを消すわけではない

NISTは、媒体のサニタイズ方法をClear、Purge、Destroyの三つに整理しています。

Clearは利用者がアクセスできる記憶領域を対象とし、Purgeは高度な研究設備を用いても対象データの復元を困難にしながら媒体を再利用可能な状態に保つ方法、Destroyは媒体を再利用できない状態にする方法です。可能な場合には、ClearよりPurgeを選ぶことが推奨されています。

日本企業の社内規程で、必ず英語の分類を使う必要はありません。

しかし、「初期化」「完全消去」といった曖昧な言葉だけではなく、実際に採用した技術と保証水準を記録することが重要です。

SSDやUSBメモリに「何度も上書き」は適切とは限らない

古いハードディスクの消去方法として、「0を何回も上書きする」「7回上書きする」といった説明を見かけることがあります。

NISTの2026年7月FAQでは、旧来の複数回上書きは不要であり、特にフラッシュメモリでは寿命を縮める一方、十分な機密性保護にならない場合があると説明されています。

SSD、USBメモリ、SDカードなどのフラッシュメモリでは、予備領域やウェアレベリングと呼ばれる仕組みが使われます。

通常の読み書き命令では、過去にデータが置かれていたすべての領域を直接指定できない場合があります。このため、単純な上書きを繰り返しても、媒体全体を確実に処理したことにはならない可能性があります。

フラッシュメモリでは、次の順番で検討します。

  1. 製品や媒体が対応する専用の消去機能を確認する
  2. メーカーが示す消去手順と対象領域を確認する
  3. 暗号学的消去を使う場合は、前提条件を確認する
  4. 適切な論理消去を実行できない場合は、物理破壊を検討する
  5. 使用した機能、ツール、バージョン、結果を記録する

媒体の種類を確認せず、「社内ではすべて同じ消去ソフトを使う」と決めることは避けるべきです。

暗号化していたから鍵を消せばよいとは限らない

暗号化された媒体では、暗号鍵を安全に無効化する「暗号学的消去」を利用できる場合があります。

ただし、単に「BitLocker等で暗号化していた」「スマートフォンは暗号化されているはず」という理由だけで、鍵を消せばすべて完了すると判断してはいけません。

NISTのFAQでは、暗号学的消去をPurgeとして扱うための前提として、暗号化開始前に平文で機密情報が保存されていないこと、十分な暗号強度があること、対象となる鍵を確実に無効化することなどを挙げています。

例えば、導入当初は暗号化されておらず、後から暗号化を有効にした端末では、過去の平文データが媒体上に残っている可能性を検討しなければなりません。

暗号学的消去を採用する場合は、少なくとも次を確認します。

  • 暗号化を開始した時期
  • 媒体全体が暗号化対象になっていたか
  • 回復鍵や複製された鍵の保存先
  • どの鍵を無効化したか
  • 鍵の無効化結果
  • 製品・サービス事業者が示す前提条件
  • 検証担当者

物理的に穴を開ければよいとは限らない

媒体に一つだけ穴を開けたり、ケースを曲げたりしただけでは、データが記録された部分が残る可能性があります。

NISTも、穴開け、切断、折り曲げなどは、媒体の一部を損傷させるだけで、残った部分からデータへアクセスできる可能性があると説明しています。

物理破壊を行う場合も、従業員が工具を使って自己流で壊すのではなく、媒体の種類、情報の重要度、破壊後の粒度、作業安全性、廃棄物処理を考慮した方法を選びます。

バッテリーを内蔵したスマートフォンやノートパソコンを、社内で安易に破砕・穿孔することも避けるべきです。

物理破壊が必要な場合は、対応設備を持つ事業者への委託を基本とします。

消去方法を決める前に確認する五つの条件

以下は、本稿で提案する実務上の判断項目です。すべての企業に一律に適用される法定基準ではありません。

判断項目確認する内容
保存されていた情報公開情報、社内情報、個人データ、営業秘密、設計情報等
媒体の種類HDD、SSD、フラッシュメモリ、磁気テープ、内蔵ストレージ等
媒体の状態正常、読み取り不良、電源が入らない、破損等
処理後の利用社内再利用、社外再利用、返却、リサイクル、廃棄
管理の移転自社内で処理するか、委託先へ渡すか

NISTは、情報の機密性、媒体の種類、媒体を再利用するか、誰が媒体を管理するかを考慮して、消去方法を選ぶことを求めています。

「個人情報がある機器はすべて破壊」とする方法は分かりやすい一方、再利用可能な機器まで破壊することになります。

反対に、「すべて初期化して中古売却」とする方法では、情報の重要度に見合わない場合があります。

自社の情報区分と処分先を組み合わせて、消去方法を決めます。

PC・ノートパソコンで確認すること

パソコンの廃棄では、本体の台数だけでなく、内蔵されている記憶媒体を確認します。

廃棄前の確認項目

  • 資産管理番号
  • メーカー、機種、製造番号
  • 利用者、所属部署
  • 内蔵HDD・SSDの数
  • 増設した記憶媒体
  • SDカード等の挿入有無
  • 保存されていた情報
  • 暗号化の状態
  • データ移行・バックアップの完了
  • リース品か自社所有品か
  • 返却先・処分先
  • 採用する消去方法

ノートパソコンには、標準搭載のSSDとは別に、後から増設したSSDがある場合があります。

デスクトップパソコンでは、業務用ドライブとバックアップ用ドライブが別になっている場合もあります。

本体の製造番号だけではなく、必要に応じて記憶媒体のメーカー、型番、製造番号も記録します。

消去後に確認すること

  • 消去ツールが正常終了したか
  • エラーや処理不能領域がなかったか
  • 正しい媒体を処理したか
  • OSやファイルへアクセスできない状態か
  • 再利用する場合、再設定が必要か
  • 破壊した場合、対象媒体と破壊物が一致しているか
  • 消去証明書の製造番号と台帳が一致するか

「Windowsを再インストールした」「利用者のアカウントを削除した」という対応だけでは、媒体全体の消去を確認したことにはなりません。

NASは本体ではなく「すべてのドライブ」を管理する

NASの廃棄で起きやすいのが、筐体だけを一台として管理し、内部のドライブを個別管理していないことです。

例えば、4台のHDDで構成したNASには、少なくとも4個の記憶媒体があります。構成によっては、予備ドライブ、SSDキャッシュ、増設ユニット、外付けバックアップも存在します。

NASで確認する媒体

  • 稼働中のHDD・SSD
  • RAIDを構成する全ドライブ
  • ホットスペア
  • SSDキャッシュ
  • 増設ユニット内のドライブ
  • USB接続のバックアップ媒体
  • 交換後に保管している故障ドライブ
  • SDカード、内蔵フラッシュメモリ
  • 設定情報を保存したバックアップファイル

ボリュームを削除したり、RAIDを再構築したりしても、各ドライブを適切に消去したことにはなりません。

NISTは、媒体に利用者から見えない予備領域等が存在する場合、利用者が指定できる領域だけではなく、媒体全体を消去対象とする考え方を示しています。

NASを廃棄する際は、筐体の資産番号と、各ドライブの製造番号を対応させます。

一台でも所在不明のドライブがあれば、「NAS一式の処分完了」としてはいけません。

USBメモリ・外付け媒体で確認すること

USBメモリは小さく、安価で、資産管理番号を付けずに利用されやすい媒体です。

廃棄する際にまとめて箱へ入れるだけでは、何本を処理したのか、個人所有の媒体が混ざっていないか、証明書の対象と一致するかを確認できません。

USBメモリ台帳と照合する項目

  • 媒体管理番号
  • メーカー、製品名
  • 容量
  • 製造番号
  • 利用部署・利用者
  • 主な用途
  • 保存していた情報
  • 最終貸出日・返却日
  • 暗号化の有無
  • 消去・破壊方法
  • 処分日
  • 証明書番号

USBメモリや外付けSSDはフラッシュメモリを使用している場合があるため、旧来のHDDと同じ上書き手順が適切とは限りません。

媒体が専用消去命令に対応しているかを確認できない場合や、機密性の高い情報を保存していた場合は、再利用せず物理破壊を選ぶ方法も検討します。

8月11日公開分の「USBメモリ持ち出しをゼロにできない会社のための承認・暗号化・紛失時初動」で作成したUSBメモリ台帳に、廃棄日、消去方法、証明書番号の欄を追加すると、貸出しから廃棄までを一つの台帳で管理できます。

スマートフォン・タブレットで確認すること

スマートフォンには、メール、チャット、クラウドストレージ、顧客管理、認証アプリ、VPN、写真、録音、連絡先など、多くの業務情報が残ります。

端末内のファイルだけでなく、会社のクラウドサービスへ入るための認証情報も確認対象です。

返却・廃棄前の確認項目

  • 会社所有か個人所有か
  • 端末管理番号、製造番号
  • 利用者
  • SIM・eSIMの契約
  • SDカードの有無
  • 会社アカウント
  • MDM等の端末管理登録
  • VPN、端末証明書
  • 認証アプリ・パスキー
  • 業務データの移行
  • メーカーが示す初期化手順
  • 下取り・返却先

NISTは、スマートフォンや複合機など、利用者が記憶媒体へ直接消去命令を実行できない機器では、メーカーの初期化機能がClearに相当する場合があると説明しています。ただし、初期化が自動的にPurge相当になるという意味ではありません。

端末を初期化した後も、次を確認します。

  • 会社のMDM上で廃棄端末として処理したか
  • クラウド側に古い端末登録が残っていないか
  • VPNや端末証明書を失効させたか
  • SIM・eSIMを停止または移行したか
  • SDカードを抜き、別途処理したか
  • 新しい利用者が前利用者の情報へアクセスできないか
  • 下取り先の受領記録を取得したか

電源が入らず初期化できないスマートフォンは、「故障しているから読めない」と判断せず、未消去媒体として扱います。

複合機やネットワーク機器も記憶媒体になり得る

NISTは、データを保存し得る機器として、HDD、SSD、フラッシュメモリ、スマートフォンに加え、ネットワーク機器やオフィス機器も挙げています。

次の機器にも、設定、ログ、アドレス帳、送受信履歴、画像データ等が残る場合があります。

  • 複合機・プリンタ
  • ルーター・ファイアウォール
  • Wi-Fiアクセスポイント
  • 監視カメラ・録画装置
  • 電話設備
  • バックアップ装置
  • 入退室管理機器
  • 会議室端末
  • POS端末

PCの廃棄手順だけを作り、これらを対象外にしないようにします。

廃棄手続を12段階に分ける

以下は、中小企業向けの実務手順案です。

1 廃棄申請を行う

機器名、資産番号、利用者、廃棄理由、処分方法、後継機を記載します。

利用者の判断だけで、中古買取店や回収箱へ持ち込ませないようにします。

2 廃棄待ちとして隔離する

廃棄予定機器は、通常の在庫や再利用機器と分け、施錠できる場所へ保管します。

機器に「廃棄待ち」「未消去」「使用禁止」などの表示を付けます。

3 媒体を特定する

本体だけでなく、内蔵ドライブ、外付け媒体、SDカード、SIM等を確認します。

現物の製造番号を写真または記録票へ残します。

4 保存情報を確認する

顧客情報、従業員情報、会計情報、設計情報、認証情報など、取り扱っていた情報の区分を確認します。

5 保存義務とデータ移行を確認する

消去前に、法令・契約上保存すべき記録や、後継機へ移すべき業務データを確認します。

「安全のため」と急いで消去し、必要な会計・契約記録まで失わないようにします。

6 処分先を決める

社内再利用、リース返却、買取、下取り、リサイクル、破壊のいずれかを決めます。

7 消去方法を決める

媒体と情報の重要度に応じて、Clear、Purge、Destroyのどれに相当する処理を採用するか決めます。

8 処理を実行する

社内で行う場合は、承認されたツールと手順を使用します。

委託する場合は、受渡し時に台数と製造番号を照合します。

9 処理結果を検証する

消去ツールの終了表示だけでなく、エラー、処理対象、媒体の状態を確認します。

10 消去方法が適切だったか判断する

情報の重要度と媒体に対して、採用した方法で十分だったかを責任者が判断します。

11 証明書と台帳を照合する

証明書に記載された資産番号・製造番号、消去方法、日付、処分先を資産台帳と照合します。

12 機器とアカウントの処理を完了する

端末管理、クラウド、VPN、保守契約、ライセンス等から旧機器を削除し、廃棄処理を完了します。

「検証」と「妥当性確認」を分ける

NIST Rev.2では、消去結果の確認を、VerificationとValidationの二段階に分けています。

確認確認する内容
Verification・検証ツールや機器がエラーなく処理を完了したか
Validation・妥当性確認その方法が媒体と情報の重要度に対して十分だったか

例えば、SSDに対して上書きツールが「正常終了」と表示された場合、操作のVerificationには成功しているかもしれません。

しかし、予備領域を処理できない方法であれば、機密性の高い情報に対するValidationでは不十分と判断される可能性があります。

NISTは、技術的には正常終了していても、媒体に適さない方法を使用した場合や、消去対象が狭すぎた場合は、処理を有効と認めず、別の方法またはより強い方法を実施する考え方を示しています。

中小企業では、次のように役割を分ける方法があります。

役割主な確認
作業者指定された方法で消去・破壊する
確認者対象機器、処理結果、エラーを確認する
責任者情報の重要度に対して方法が十分か承認する
資産管理担当証明書と資産台帳を照合する

一人が作業から承認までをすべて行うより、少なくとも重要機器については別の人が確認する方が、取り違えや処理漏れを発見しやすくなります。

消去証明書に記載してほしい項目

「パソコン10台、消去済み」とだけ書かれた証明書では、自社のどの機器が処理されたのか分かりません。

NISTの消去証明書例には、メーカー、型番、製造番号、資産番号、媒体の種類、消去方法、使用ツール、検証結果、作業者、日付、処分先等が含まれています。

消去証明書の推奨項目

項目確認する内容
証明書番号証明書を一意に識別できる番号
委託元自社名、部署、担当者
対象機器PC、NAS、HDD、SSD、USB、スマホ等
メーカー・型番対象機器・媒体を識別する情報
製造番号資産台帳と照合するための番号
資産管理番号自社が付けた管理番号
媒体の状態正常、故障、読取不能等
消去方法Clear、Purge、Destroy等
実際の処理技術上書き、専用命令、暗号学的消去、物理破壊等
使用ツール製品名、バージョン
実施結果成功、失敗、再処理等
検証方法エラー確認、現物確認等
実施者・確認者氏名、所属、役割
実施日時・場所いつ、どこで処理したか
処分先再利用、リサイクル、返却等
再委託先再委託がある場合の処理組織
署名・承認証明内容に責任を持つ人

証明書を受け取るだけでなく、製造番号と資産台帳を実際に照合します。

証明書に製造番号がない場合は、回収時の明細、写真、封印番号等を組み合わせ、対象機器とのつながりを確認します。

消去証明書だけでは十分でない

証明書が正しくても、証明書に記載されていない機器が社内に残っていれば、廃棄管理は完了していません。

NISTは、証明書の価値は媒体のライフサイクル全体を追跡できているかに左右されると説明しています。

機器を導入した時点、最後に使用した場所から搬出した時点、消去後の処分先へ到着した時点まで記録しなければ、証明書は「その証明書に書かれた媒体を処理したこと」しか示せません。

例えば、NASに入っていた4台のHDDのうち、証明書に3台しか記載されていない場合、3台を適切に処理したことは確認できます。

しかし、残り1台の所在は分かりません。

そのため、次の三つを一組として管理します。

  1. 資産管理台帳
  2. 回収・搬出記録
  3. 消去・破壊証明書

廃棄業者へ確認したい15項目

確認項目確認内容
対応媒体HDD、SSD、USB、スマホ等に対応できるか
消去基準どの標準・社内基準に基づくか
媒体別の方法全媒体へ同じ方法を使っていないか
使用ツール製品名とバージョン
故障媒体通電・認識できない媒体をどう処理するか
検証正常終了とエラーをどう確認するか
証明書製造番号単位で発行できるか
物理破壊破壊方法と処理設備
処理場所自社内、業者拠点、再委託先のどこか
搬送集荷から処理までの管理方法
保管処理前の機器を施錠管理するか
再委託再委託の有無、委託先名、管理方法
事故連絡紛失・盗難・数量不一致時の連絡期限
最終処分再利用、再資源化、廃棄の行き先
記録保管証明書・作業記録をどの程度保管するか

「データ消去対応」と広告に書かれていることだけでは判断できません。

自社が保有する媒体に対して、どの方法を使い、どのような証明を出すのかを契約前に確認します。

回収時に残す受渡記録

機器を消去業者へ渡す時点では、まだデータ消去は完了していません。

次のような受渡記録を作ります。

項目記録例
受渡日時2026年8月31日10時30分
受渡場所本社管理部
委託先○○リサイクル株式会社
委託先担当者氏名、社員番号等
引渡担当者自社担当者
機器数PC5台、HDD8台、スマホ3台
資産番号PC-001~PC-005等
製造番号一覧を添付
未消去・消去済み引渡時の状態
梱包・封印箱番号、封印番号
搬送方法専用車、宅配等
証明書予定日2026年9月10日
例外製造番号読取不能1台等
双方の確認署名・電子承認

宅配便を利用する場合も、箱へ「PC5台」とだけ記載するのではなく、箱番号と機器一覧を対応させます。

資産台帳は行を削除しない

機器を廃棄した際、資産台帳から該当行を削除すると、後から確認できなくなります。

本稿では、行を削除せず、状態を次のように変更する方法を提案します。

利用中

廃棄申請済み

廃棄待ち・未消去

委託先へ引渡し済み

消去・破壊済み

証明書確認済み

再資源化・返却完了

廃棄処理完了

業者へ渡した日を、直ちに「廃棄完了日」としないことが重要です。

証明書と処分先を確認した日を、社内手続上の完了日とします。

資産台帳へ追加したい廃棄項目

  • 廃棄申請番号
  • 廃棄理由
  • 最終利用者
  • 最終設置場所
  • 保存情報の区分
  • 内蔵媒体の種類・数
  • データ移行確認日
  • 廃棄承認者
  • 未消去機器の保管場所
  • 引渡日
  • 引渡先
  • 消去方法
  • 消去実施日
  • 消去証明書番号
  • 証明書確認者
  • 最終処分先
  • 後継機の資産番号
  • 端末管理解除日
  • 廃棄完了日

IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版」には、付録として資産管理台帳のサンプルが提供されています。自社で新しい台帳を一から作るのが難しい場合は、IPAのサンプルに廃棄・証明書欄を追加する方法があります。

廃棄証跡ファイルの構成例

一台または一回の廃棄案件ごとに、次の資料をまとめます。

番号保存する資料
1廃棄申請・承認記録
2資産台帳の対象一覧
3機器・製造番号の写真
4データ移行・保存確認記録
5消去方法の決定記録
6委託先への作業指示書
7受渡記録・集荷伝票
8消去・破壊証明書
9証明書と台帳の照合記録
10端末管理・アカウント解除記録
11最終処分・再資源化の記録
12例外・不一致への対応記録

フォルダ名には、廃棄申請番号や実施年月を入れます。

例として、次のような構成が考えられます。

2026-08_機器廃棄-003
├─01_廃棄承認
├─02_対象機器一覧
├─03_受渡記録
├─04_消去証明書
├─05_台帳照合
└─06_例外対応

既存記事で提案した「証跡ファイル」の中に、「機器廃棄・データ消去」という区分を追加すると、取引先から廃棄方法を質問されたときにも説明しやすくなります。

よくある失敗

資産台帳を確認する前に回収業者へ渡す

業者へ渡してから機器一覧を作ろうとしても、製造番号を確認できません。

受渡し前に現物と台帳を照合します。

証明書が台数だけで製造番号を含まない

「PC10台」とだけ記載されていても、自社の10台かを確認できません。

製造番号または資産番号との対応表を取得します。

故障したドライブを処理対象から外す

読み取り不能であっても、専門的な手段でデータを取得できる可能性を完全には否定できません。

論理消去できない媒体は、適切な物理破壊へ切り替えます。

NASの筐体だけを廃棄記録へ載せる

内部ドライブ、予備ドライブ、交換済み故障ドライブを個別に確認します。

初期化画面の写真だけを証拠にする

画面写真だけでは、対象媒体、処理方式、処理結果を十分に説明できない場合があります。

ツールログや証明書、製造番号との対応を残します。

消去証明書を受け取って保管するだけ

証明書に記載された台数や製造番号が、引渡記録や資産台帳と一致しているか確認しなければなりません。

台帳上の機器を削除する

廃棄後も履歴を残し、いつ、誰が、どの方法で処理したかを追跡できるようにします。

クラウドや端末管理の登録が残る

物理機器を処分しても、MDM、RMM、VPN、クラウド管理画面、ソフトウェアライセンス等に古い機器が残ることがあります。

物理処分と論理的な登録解除を分けて確認します。

未消去のまま機器が所在不明になった場合

廃棄待ちのPCやHDDが見つからない、業者へ渡した台数と証明書の台数が合わないという場合は、単なる台帳ミスとして処理してはいけません。

最初に確認する事項

  • 所在不明に気づいた日時
  • 最後に確認した日時・場所
  • 機器と媒体の資産番号・製造番号
  • 最終利用者
  • 保存していた情報
  • 暗号化の状態
  • アカウントや認証情報の有無
  • 業者への引渡記録
  • 防犯カメラ、入退室、搬出記録
  • 同じ箱や便で運ばれた他の機器
  • 現在行っている捜索・連絡

媒体が見つからないという事実だけで、直ちに第三者がデータを閲覧したと断定することはできません。

一方、未消去媒体が自社の管理外へ出た可能性がある場合は、情報漏えい等の可能性を調査する必要があります。NISTも、未消去媒体が組織の管理外へ出ることについて、情報の種類や適用される規則によってはデータ侵害として扱われる可能性があるとしています。

個人データが含まれていた場合は、対象情報、人数、暗号化状態、第三者取得のおそれ等を確認し、個人情報保護委員会への報告や本人通知の要否を判断します。

具体的な初動については、既存記事「個人情報の漏えい等が疑われたら何を確認するか:速報・確報・本人通知の実務整理」と併せて確認してください。

月1回確認したい廃棄管理の数字

以下は、本稿で提案する月次点検の例です。

指標確認する意味目指す状態
廃棄待ち機器数未処理機器が増えていないか全件に期限あり
未消去機器数情報を残した機器が放置されていないか施錠管理・期限設定
所在不明機器数台帳と現物が一致しているか0
製造番号不明媒体数証明書と照合できるか0
証明書未受領件数委託後の処理を確認できているか0
証明書不一致件数台数・製造番号が一致しているか0
故障媒体の未処理数消去できない媒体が放置されていないか0
廃棄期限超過数「後で廃棄」が恒久化していないか0
端末管理残存数廃棄端末がMDM等に残っていないか0
再委託先不明件数実際の処理場所が分かるか0
台帳未更新件数証跡と資産管理がつながっているか0
処分先不明件数消去後の行き先を確認できるか0

確認頻度は、すべての企業に一律に求められる法定頻度ではありません。

廃棄台数が少ない会社では、廃棄の都度確認し、月末に未完了案件がないかを見る方法でも構いません。

30日で廃棄管理を整える

期間実施すること完成させるもの
第1週社内にある廃棄待ち・故障機器を集める廃棄待ち機器一覧
第1週PC、NAS、USB、スマホ等の媒体を特定する媒体・製造番号一覧
第2週情報区分と媒体別の消去方法を決めるデータ消去基準
第2週現在の回収・廃棄業者へ方法と証明書を確認する委託先確認票
第3週少数の機器で消去・証明書取得を試す消去証明書、照合記録
第3週廃棄申請・受渡記録を作る廃棄申請書、受渡票
第4週資産台帳に廃棄欄を追加する改訂版資産台帳
第4週廃棄待ち機器を一括処理する廃棄証跡ファイル
第4週所在不明時の連絡手順を確認する初動チェック表

最初から高度な資産管理システムを導入する必要はありません。

表計算ソフトでも、次の状態を作ることが重要です。

  • 何を廃棄するか分かる
  • どの情報が入っていたか分かる
  • どの方法で処理するか分かる
  • 誰へ渡したか分かる
  • 証明書と現物を照合できる
  • 処理後の行き先が分かる
  • 台帳上の手続を完了できる

経営者が確認したい五つの質問

経営者が、SSDの内部構造や消去命令の詳細を理解する必要はありません。

担当者や廃棄業者へ、次の五つを質問してください。

  1. 現在、社内に廃棄待ち・故障中のPC、NAS、USB、スマートフォンは何台あるか
  2. 媒体の種類と保存情報に応じて、消去方法を変えているか
  3. 回収業者へ渡した機器を、製造番号単位で追跡できるか
  4. 消去証明書と資産台帳を実際に照合しているか
  5. 業者へ渡した日ではなく、証明書と最終処分を確認した日を完了日としているか

この五つに答えられないからといって、直ちにデータが漏えいしているとは限りません。

しかし、機器の廃棄とデータの消去を会社として管理できていない可能性があります。

まとめ

PCやスマートフォンを手放すときに必要なのは、「初期化ボタンを押すこと」だけではありません。

次の一連の流れを管理する必要があります。

  1. 廃棄する機器と媒体を特定する
  2. 保存されていた情報を確認する
  3. データ移行と保存義務を確認する
  4. 再利用・返却・破棄などの処分先を決める
  5. 媒体に適した消去方法を選ぶ
  6. 消去・破壊の結果を検証する
  7. 情報の重要度に対して十分か判断する
  8. 証明書を取得する
  9. 製造番号と資産台帳を照合する
  10. 端末管理・アカウント登録を解除する
  11. 最終処分先を確認する
  12. 廃棄記録を証跡として保存する

消去証明書は重要ですが、証明書だけで廃棄管理が完成するわけではありません。

資産台帳、受渡記録、消去証明書がつながり、社内に導入した媒体が最後の処分先まで追跡できていることが重要です。

最初の一歩として、社内の倉庫、キャビネット、机の引き出しを確認してください。

そして、故障したPC、交換済みHDD、古いUSBメモリ、使用していないスマートフォンを一か所へ集め、次の質問へ答えます。

この機器を今日社外へ出しても、保存されていた情報を復元できないことを、会社として説明できるか。

説明できない機器は、まだ「廃棄可能な機器」ではなく、「未処理の情報資産」です。

ライトハウスコンサルタントの「中小企業セキュリティ現状診断」では、PC、スマートフォン、USBメモリ、NAS、クラウドサービス等の資産管理状況に加え、廃棄、返却、委託先、証跡の管理方法も確認します。

廃棄機器が倉庫へたまっている、消去業者から受け取った証明書の見方が分からない、資産台帳と現物が一致しないという場合は、廃棄を急ぐ前に、対象機器と処理状況を一覧にすることが重要です。