※本稿は、2026年8月30日時点で公開されている資料に基づいています。メールの保存義務は、メールの内容、業種、契約、税務、係争の有無などによって異なります。個別の法的判断や税務上の取扱いについては、弁護士、税理士などへ確認してください。

「念のため、過去のメールは全部残しています」

中小企業では、珍しくない運用です。

過去のやり取りを確認できることには利点があります。担当者が退職した後の引継ぎや、取引先との認識違いが生じた際に、当時のメールが役立つこともあります。

一方、保存する必要がなくなったメールまで無期限に残していると、不正アクセスを受けたときに確認しなければならない情報が増えます。

科学技術振興機構は2026年8月7日、一部役職員のメールボックスに保管されていたメールの一部について、第三者による不正アクセスにより外部へ漏えいした可能性があると公表しました。8月28日の更新では、対象は役職員12名のメールボックスに保管されていた約18,000件のメール情報で、外部のメールアドレス約1,400件、同機構役職員のメールアドレス約1,000件が含まれるとされています。

公表時点では、不特定多数への公開や不正利用は確認されておらず、原因究明も継続中です。そのため、本件の原因をメールの保存期間や特定の運用へ結び付けることはできません。

ただし、この事案から一般的に確認できるのは、メールボックスが不正アクセスの対象となった場合、現在進行中のメールだけでなく、そこに残されている過去のメールも影響範囲になり得るという点です。

今回は、メールを何年残すべきか、どのメールを別の場所へ移すべきか、不要になったメールをどのように削除するかを、中小企業向けに整理します。

結論:全てのメールに共通する保存年数はない

最初に結論を述べると、会社の全てのメールを一律に「1年」「7年」「10年」と決めることは適切ではありません。

メールの保存期間は、内容によって分けて考える必要があります。

個人情報保護法では、個人情報全般について一律の保存期間や廃棄時期を定めているわけではありません。一方、個人情報取扱事業者は、個人データを利用する必要がなくなったときは、遅滞なく消去するよう努めなければならないとされています。

個人情報保護委員会は、「遅滞なく」が何日以内であるかは一律ではなく、業務上の必要性や、保管を続けた場合の影響などを考慮し、必要以上に長期とならないようにする必要があると説明しています。事業者のデータ管理サイクルなど、実務上の事情を考慮することは認められています。

一方、請求書、注文書、契約書、領収書などの取引情報をメールで授受した場合は、税法上の保存対象となる場合があります。

したがって、会社として決めるべきなのは「メールは全て何年保存するか」ではありません。

次の三つを分けて決める必要があります。

  1. 法令や契約により保存が必要な情報
  2. 業務上、一定期間残す必要がある情報
  3. 利用目的が終了し、保存する必要がない情報

「メールだから7年間保存」は正しくない

電子帳簿保存法に対応するため、「会社のメールは全て7年間保存しなければならない」と理解されることがあります。

しかし、国税庁は、電子メールで授受される情報の全てが取引情報に該当するわけではなく、取引情報を含まない電子メールについて、電子帳簿保存法上の保存は必要ないと説明しています。

例えば、次のようなメールがあったとします。

先ほどの請求書を添付します。よろしくお願いいたします。

取引情報が添付された請求書に全て記載されている場合、電子帳簿保存法上は、その添付ファイルを保存すればよいとされています。

一方、次のようにメール本文に取引条件が記載されている場合は、本文も保存対象となり得ます。

納期は9月30日、金額は税込55万円、支払期限は翌月末でお願いします。

国税庁の2026年7月版Q&Aでは、メール本文に取引情報が記載されている場合はメールを保存し、添付ファイルで取引情報を授受した場合は添付ファイルを保存すると整理されています。

つまり、必要なのは「受信箱を丸ごと残すこと」ではなく、保存対象となる取引情報を判別し、必要な期間、適切な方法で保存することです。

税務関係のメールは正式な保存場所へ移す

国税庁の2026年7月版Q&Aでは、法人の場合、帳簿や注文書、契約書、領収書などの国税関係書類は、原則として7年間保存するとされています。青色繰越欠損金や災害損失金額が生じた一定の事業年度については、10年間となる場合があります。

個人事業者は、書類の種類などによって5年間または7年間です。適格請求書やその電磁的記録については、消費税法上、原則として7年間の保存が必要です。

ただし、税務上保存が必要な請求書を、経理担当者のメールボックスに7年間残すだけでは、次の問題があります。

  • 担当者が退職すると所在が分からなくなる
  • メール件名や送信者だけでは必要な書類を探しにくい
  • 同じ請求書が複数の担当者へ転送され、複製が増える
  • 誤ってメールを削除する可能性がある
  • メールアカウントが侵害された際、過去の請求書も閲覧される可能性がある
  • メールの保存と税務上必要な検索・改ざん防止措置が一致しないことがある

税務関係のデータは、受信箱を正式な保管庫にするのではなく、電子帳簿保存法へ対応したシステム、文書管理システム、アクセス制御された共有フォルダなど、自社が定めた正式な保存場所へ移します。

国税庁は、メールに含まれる取引情報が失われないのであれば、メールをPDFなどへエクスポート・変換し、検索機能を備えた状態で保存する方法も認められると説明しています。

メールボックスには四つの役割を持たせない

メール管理が難しくなる原因の一つは、メールボックスが複数の役割を兼ねていることです。

次の四つは分けて考える必要があります。

区分主な役割管理上の考え方
メールボックス日常の連絡、対応中案件の管理業務上必要な期間に限定する
正式な記録保管場所契約、請求、承認、顧客記録などの保存法令、契約、社内規程に従って保存する
バックアップ障害、誤削除、ランサムウェア等からの復旧復旧目的で世代・期間を設定する
保全・ホールド訴訟、調査、監査、インシデントの証拠保全通常の自動削除を一時停止する

バックアップは、正式な文書管理やアーカイブと同じではありません。

国税庁も、電子取引データのバックアップは法令上の必須要件ではないものの、保存期間を通じて適切に保存するためには、バックアップを保存することが望ましいと説明しています。

バックアップだけに頼ると、「データはどこかにあるが、必要なメールをすぐに検索できない」という状態になりかねません。

反対に、メールボックスをバックアップ代わりにすると、必要性がなくなった情報まで残り続けます。

削除ボタンを押しても、直ちに消えるとは限らない

メールの削除ルールを作る際には、利用者が削除ボタンを押した状態と、システムから完全に消去された状態を区別する必要があります。

Exchange Onlineでは、削除されたメールが回復可能な領域へ移動し、保持ポリシーや訴訟ホールドなどが適用されている場合には、利用者が削除した後も保持される仕組みがあります。

Google Vaultでも、標準の保存ルール、個別の保存ルール、ホールドを設定できます。ホールドは通常の保存ルールより優先され、対象データを保持します。Googleは、保存期間を短縮したりホールドを解除したりすると、他のルールで保護されていないデータが直ちに完全削除される可能性があるとして注意を促しています。

利用できる機能は、契約しているサービスやプランによって異なります。

自動削除を設定する前に、少なくとも次の項目を確認してください。

  • 削除済みフォルダに残る期間
  • 管理者が復元できる期間
  • 保持ポリシーの有無
  • 訴訟、調査、監査等のホールド設定
  • 退職者メールボックスの保持設定
  • バックアップ上に残る期間
  • スマートフォンやメールソフトに保存された複製
  • メールアーカイブサービスの有無

「受信箱から見えなくなった」だけで消去完了と判断しないことが重要です。

保存期間はメールの種類ごとに決める

ここから示す期間は、公的機関が定めた一律の基準ではありません。

中小企業が社内ルールを作る際のたたき台です。実際には法令、契約、業界ガイドライン、自社の業務上の必要性を確認して設定してください。

メールの種類保存期間の設定例期限後の対応
日程調整、会議案内、簡単な連絡受送信後6か月~1年自動削除
ニュースレター、広告、サービス通知受信後30日~90日自動削除
一般的な問い合わせ対応完了後1年必要な顧客記録を移管後、削除
苦情・事故に関する問い合わせ解決後1年~3年などリスク、契約、業界ルールを確認
不採用者の応募書類・履歴書選考終了後6か月または1年など利用目的終了後、安全に消去
プロジェクトの連絡プロジェクト終了後1年~3年など決定事項を正式記録へ移管
請求書、注文書、契約書、領収書法令上必要な期間正式な保存場所で管理
インシデント、監査、係争に関係するメール個別に指定通常の削除を停止
迷惑メール、隔離メール30日程度など自動削除

個人情報保護委員会は、不採用者の履歴書について、再応募への対応などのための合理的な期間が経過し、利用する必要がなくなった場合には、利用停止等の請求へ応じる義務が生じ得ると説明しています。また、利用する必要がなくなった個人データは遅滞なく消去するよう努める必要があります。

「念のため」という理由だけで、応募者の履歴書や問い合わせ内容を無期限に保存する運用は避けるべきです。

保存期間の起算日を決める

「1年間保存する」と決めるだけでは、自動削除の設定や手作業での確認ができません。

いつから1年間なのかも決めます。

メールの種類起算日の例
日常的な連絡受信日または送信日
問い合わせ対応を完了した日
採用関係選考を終了した日
プロジェクトプロジェクトを終了した日
契約関係契約終了日または法令上の起算日
退職者メール退職日または引継ぎ完了日
インシデント関係調査・法的手続の終了を確認した日

税務関係書類については、単純にメール受信日から7年間とするのではなく、各税法で定められた起算日を確認する必要があります。国税庁の2026年7月版Q&Aでは、法人の保存期間は原則として、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から起算すると説明されています。

保存対象を正式な場所へ移す手順

メールを減らすために、古いメールを無差別に削除してはいけません。

先に、保存する必要がある情報を正式な場所へ移します。

1.保存対象か判断する

次のいずれかに該当しないか確認します。

  • 法令上の保存義務がある
  • 契約で保存期間が決められている
  • 取引先から証跡の保存を求められている
  • 社内承認や意思決定の記録である
  • 顧客対応や苦情対応の履歴として必要である
  • インシデント、監査、紛争に関係している

2.必要な本文と添付ファイルを保存する

添付ファイルだけに取引情報がある場合は、添付ファイルを保存します。

メール本文に納期、金額、支払条件、承認内容などが記載されている場合は、本文も保存します。

3.検索できる名前を付ける

例えば、次のように統一します。

20260908_株式会社〇〇_請求書_550000円.pdf

ただし、個人名や機密情報をファイル名へ過剰に含めると、一覧画面だけで情報が見える場合があります。保存場所のアクセス権と合わせて決めます。

4.保存結果を確認する

移したつもりでも、ファイルが破損している、添付ファイルが開けない、保存先を間違えているといったことがあります。

保存したファイルを開き、必要な情報が確認できることを確かめます。

5.メールボックス上の複製を整理する

正式な保存場所への移管と確認が終わり、メール本体を残す必要がないことを確認してから、メールボックス上の複製を削除します。

自動削除は小さな範囲で試す

保存期間を決めた後は、メールサービスの保持ポリシーや自動削除機能を利用すると、従業員一人ひとりの判断へ依存しにくくなります。

ただし、最初から全社員へ適用してはいけません。

保存ルールを短縮すると、必要なデータが完全に削除される可能性があります。Googleも、保存ルールやホールドの変更によって、利用者が必要としているデータが完全に消去される可能性があるとして注意を促しています。

次の順序で進める方法が安全です。

  1. 経理、営業、採用など、メールの種類を整理する
  2. 法令・契約上の保存対象を確認する
  3. 一部のテスト用メールボックスへ適用する
  4. 保存されるメールと削除されるメールを確認する
  5. 復元方法と保全方法を確認する
  6. 対象部署を段階的に広げる
  7. 適用結果を定期的に確認する

自動削除の設定変更日、変更者、承認者、対象、保存期間を記録しておきます。

退職者メールを無期限に残さない

退職者のメールボックスは、引継ぎのため一定期間必要になる場合があります。

しかし、「何か必要になるかもしれない」という理由で、退職者のアカウントやメールボックスを無期限に残すべきではありません。

Microsoft 365では、退職者のメールを法令・コンプライアンス上の理由で一定期間保持し、その後削除するための非アクティブメールボックスの仕組みがあります。保持期間を設定したうえで、利用者アカウントを削除する運用が可能です。

退職時には、次の事項を決めます。

  • 本人のサインインを停止する日
  • メールを引き継ぐ担当者
  • 正式な記録として移管するメール
  • 後任者が閲覧できる範囲
  • メールボックスの保存終了日
  • 転送や自動返信の終了日
  • 完全削除を確認する担当者

退職者アカウントの停止・削除については、過去記事「退職者・異動者アカウントの消し忘れをなくす」でも整理しています。

削除してはいけない状況を決めておく

自動削除を導入した会社では、「どのような場合に削除を止めるか」も決める必要があります。

例えば、次のような状況です。

  • 訴訟や紛争が発生した
  • 取引先から正式な苦情を受けた
  • 不正アクセスや情報漏えいが疑われる
  • 社内不正の調査を開始した
  • 行政機関、警察、監査人などから資料の保全を求められた
  • 取引先との請求金額や契約条件に認識違いが生じた

この場合は、担当者の判断で関係メールを削除せず、対象者、対象期間、キーワード、メールボックス、解除条件を決めて保全します。

削除停止の判断は、情報システム担当者だけに任せず、経営者、法務担当者、個人情報保護担当者、弁護士などと連携して行います。

これは公的機関による一律の保存期間ではなく、証拠や調査情報を不用意に失わないための実務上の対応です。

メール保存・削除ルールの記載例

社内規程や手順書には、次のように記載できます。

業務メールは、法令、契約または業務上の必要性に基づき、会社が定める期間保存する。

請求書、契約書、注文書、承認記録その他の正式な記録に該当する情報は、所定の文書管理場所へ保存し、メールボックスを正式な記録保管場所として使用しない。

保存期間を経過し、利用目的が終了したメールは、保全対象となっている場合を除き、所定の方法で削除する。

訴訟、監査、インシデント調査その他の理由により保全が必要となった場合は、管理責任者の指示により、自動削除を停止する。

保存期間、削除方法、保全対象および例外は、年1回ならびに法令、契約またはシステムに変更があったときに見直す。

これは実務上のひな型です。そのまま使用せず、自社の業務、法令、契約、利用中のメールサービスに合わせて修正してください。

経営者が確認したい五つの質問

経営者が個々のメールを確認する必要はありません。

まず、担当者へ次の五つを確認してください。

  1. 法令や契約により保存が必要なメールを特定しているか
  2. 請求書や契約書を個人のメールボックス以外へ保存しているか
  3. 保存する必要がないメールの削除時期を決めているか
  4. 退職者や共有メールの保存終了日を決めているか
  5. 係争やインシデント発生時に自動削除を止める手順があるか

この五つに答えられなければ、メールボックスが「連絡手段」「文書保管庫」「バックアップ」「証拠保全」の全てを兼ねている可能性があります。

まとめ

会社のメールに共通する、一律の保存年数はありません。

個人情報保護法では、個人情報全般について保存期間が一律に定められているわけではありませんが、利用する必要がなくなった個人データについては、遅滞なく消去するよう努める必要があります。

一方、メールで受け取った請求書、注文書、契約書、領収書などは、税法上の保存対象となる場合があります。

重要なのは、全てのメールを無期限に残すことでも、古いメールを一斉に削除することでもありません。

次の順序で進めてください。

  1. メールを内容ごとに分類する
  2. 法令、契約、業務上の保存期間を確認する
  3. 正式な記録をメールボックス以外へ移す
  4. 保存期間と起算日を決める
  5. 期限を経過した不要なメールを削除する
  6. 調査や係争時には削除を停止する

最初から全社のメールを整理する必要はありません。

まずは、経理メール、採用メール、問い合わせメールの三つを対象に、最も古いメールの日付、保存されている個人情報、添付された請求書や履歴書、正式な保存場所の有無を確認してください。

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